ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

祈りの地層

5月13日。雨。吉祥寺のGALLERY IROで中村菜月さんの個展『あなたの祈り方でこの世のことを教えて』を観る。

階段をのぼり靴を脱いで木の床にあがる。木目のなめらかさを靴下越しの足裏に覚える。ギャラリーが閉まるまでに間に合うかと急いていた気持ちが、なだらかにおさまっていく。

水干絵具や岩絵具で重ね塗られた絵たちが漆喰の壁に飾られている。溶けゆくわたあめみたいな色合いだ。カーテン越しの浅い陽光を受けながらまどろんで見る世界のよう。涙を浮かべた瞳に映る景色かごとく、にじんだ輪郭が揺れている。

それがそこにあること、それをそう見たという感覚を、掬いあげては名づけて、色やかたちや光や手触りにかたどり残していく行為を、試みているのが彼女に思えた。

ここでなら、論理や意味から遠のいたものも、取るに足らない他愛のないものだと切り捨てず、掌にたたえて丁重に扱い、あなただけの、私だけの世界のできごとだと、やさしくうなずいてもらえる。