ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2023/4/29 - 大湊にて

うたた寝から目覚めると車窓越しの風景はすっかり田舎のそれになっていた。身の丈ほどあるすすきが麦畑のように土地の一角を覆って風に吹かれている。海原の青、木々の緑、枯れた花の薄紅が、視界を右から左に流れていく。

朝5時に起きて東京駅へ。新幹線と電車を乗り継いで青森に向かう。八戸までは3時間足らず。そこからさらに2時間ほどローカル線に乗ると目的地の大湊に着く。ICカードの使えない駅に降り立ち、食事処を探しながら近くを歩く。

鉄工所と旅館、地元の方向けの居酒屋やスナックが目立つ。道幅が広く、民家の一軒一軒が大きい。どこの玄関も二重で屋根は鋭角。雪国の風景、と義務教育で得た知識を反芻しながら、がらんとした通りを進む。古びた住宅の一階で営まれている食堂に上がると、ぽてぽてと厨房から出てきた割烹着姿のおばあちゃんが、何にする?と小鳥のような声で尋ねてきた。

醤油ラーメンをいただいているとすりガラスの向こうから歌謡曲めいたメロディが聞こえてきた。商店街のテーマソングだろうか。トラックに据えられたスピーカーは年季が入っているらしく、割れた歌声がよろよろと遠ざかる。常連らしき人と楽しげに話すおばあちゃんに、礼を伝えて勘定を済ませる。何の不足もない一杯が350円で食べられて驚く。

むつ湾の淵を歩くと漁師小屋から猫がわらわらと現れた。よっぽど住民にかわいがられているのだろう。脚にすり寄ったかと思うと地べたに転がり腹を出し、撫でればゴロゴロと喉を鳴らす。嬉々として一時間ばかり遊んだ。遊ばせてもらった、という方が正しいか。