ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2024/2/8

低い声で笑うんですね、と言われたことをやけに覚えている。この会社に来てからはさらにトーンが下がった。思えばここ数年は意識して明るく振る舞おうとしていたのだろう。無理をしていたわけではないけれど、立ち場とか役割とかがついて回るからどうしても、不必要に圧を与えないため心掛ける部分はたしかにあった。しゃかりきに声を張らず、淡々と話しながら時折あははと笑う今の感じは、素に近くてつかれにくい。

届いたばかりの辛子色のダウンに腕を通して麻布十番まで。山手線のダイヤが乱れていて待ち合わせに遅れるかと冷や汗をかいたが、走って向かった一駅先のメトロに飛び乗ったらなんなら予定より早く着いた。喉に血の味を感じるくらいにちゃんと駆けたのは久々だ。これが意外とわるくないからおもしろい。体が内から脈打つ感覚を、地下鉄のホームで目をつぶって味わう。

店員さんが最初から最後まで付きっきりで肉を炒め鍋をつくり小皿に取り分けおかわりをよそってくれる店なんてはじめて来た。接待とか会食向けのお店なんだろう。そんな場所でしかしお茶を飲みつつ好きなゲームとかおすすめの実況者とかの話ばかりした。steamのウィッシュリストをためたままにしている。気持ちに余裕ができたらとOMORIのプレイを先延ばしにしてきた。そろそろやってもいい頃合い。

はち切れそうな胃を抱えて電車に乗るのが怖くて一駅分歩く。首都高が張り巡らされた都市の坂を上り下りする最中、ろくに街並みが目に入らなくて慄いた。視界の8割が道路の横っ腹で埋まっている。急に明るくなったと思ったら、工事現場を照らす赤紫のランプが、爛々と光っていた。