ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2024/2/9

あまりの手際のよさに舌を巻いた。上野駅みどりの窓口を担当するともなると慣れっこなのかもしれないが。新幹線の切符を手配するためタッチパネルに触れる指先にはまったくよどみがなく、それでいながら機械的な対応にとどまらず一瞬の待ち時間に談笑を挟んでくれるくらいには余裕もあって、これが熟練の駅員さんかと感心する。明日から3連休ですからね、今日から移動される方も多いようで、横並びのお席はあいにくもう無いんですが、通路挟んでお隣になるようお取りしますね。するすると提案されるがまま答えていたら、まばたきを2、3度するうちに切符を握っていた。

車窓が北へと上っていく。切り取られる紺色の山影が薄氷に閉じ込められた湖みたいに潤って深い。抱くようにけぶる淡い雲が夕に焼かれて橙に霞んでいく様を、焚き火を見つめる心地で眺める。さっきまでいた土地よりぐっと冷える場所まで日が暮れる中を走っていくのが好きだ。駅のホームに降り立ちピンと張った空気に頬を撫ぜられ瞳に映る世界がきゅっと鮮やかになる瞬間が好きだ。

今晩の山形市の寒さは身構えていたほど厳しくはなく、夕飯にありつくまでの30、40分ばかりの道のりもそこまで苦にはならなかった。畳みたいに雪が敷き積もった街を歩いてみたかった気もするが、もしそうなるならいよいよブーツを買わなくては。

ホテルのあるビルの24階からは夜の市内を一望できた。勾配がなく淡々とつづく住宅や道路が人の灯した明かりに揺れている。遠く向こうの光が空気にちらつき瞬いていて、そこだけ海に浮かんでいるようだった。