ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2024/4/27

ぱたぱたと小さな足音がして薄く目を開けると、和紙越しに寝室がぼんやり照らされている。まだ寝ている友人たちを起こさないようにそっと障子をずらせば、淡く光を放つ磨りガラスが雨粒に打たれてささやかに歌っていた。

昨日の鍋の残りを温めてうどんを入れて朝ごはん。昨晩手をつけそこねたいちごやお菓子もつまむ。チェックアウトまでには余裕があり、雨が上がらないと外にも出られないから、団欒に一区切りがついたところで敷いたままにしていた布団に潜り込む。5分だけ、と言いつつきっちり1時間の二度寝。ほとんど予定を立てず休むのを優先して過ごすことが、この5人だと多い。と記憶しているが、数年前はもうちょっと元気だったかも。これが20代と30代の違いか。

布団をたたみ、脇に寄せていたこたつ机を元に戻して、台所を片付けたら玄関に鍵を掛けてダイヤルロックの小箱にしまう。民家の間を縫うような小道を下って最寄り駅に着いたら数駅先の稲村ヶ崎まで江ノ電で移動。

砂を巻き上げないよう気をつけつつ、浜辺に降りる。今朝の雨で波が立って見えたが、サーファーからすればたいしたことのない高さだと、ボディボードを嗜む1人が言う。身の丈を軽く上回る大きさの板を抱えた男性が、海と戯れているのを見るともなしに見つめた。塩気を含んで灰色に重たい砂浜に、スニーカーの底がやわらかく沈んで、足の裏がほんのりと冷たい。

海辺のすぐそばにある温泉の利用料は連休価格でいつもより200円ほど高く、しかし昼前だからか客はまばらで、黄金色のぬるりとした湯が張られた浴場はほとんど貸し切りだった。二度寝をしたわりにはしゃっきりとしていなかった頭がほぐれて、視界も徐々に定まっていく。2階から見渡す水面は昨日よりもいっそう白く霞んで、これが晴天ならさぞ清々しかっただろうと思いつつ、寝ぼけた頭にはこのくらいの明るさが、まぶしくなくってちょうどいい気もした。

髪を乾かしメイクを済ませて1階に戻ると男性陣がちょうど昼食を頼んだところだった。女性陣も追いつくように注文をする。しらすの乗った和風のフォーが、ぺこぺこの胃にするすると入っていく。

土産を調達しながら鎌倉まで向かおうと一駅前の和田塚で降りて歩く。レーズンバターサンドやらフィナンシェやらジャムやらを各々で買い、新幹線の出発時刻が近い1人を改札で見送ったら、残った4人でクレープ屋に並んだ。

日々のどんなときに幸せだって感じる?と昨日交わした話題をふと思い出し、バターの香りを嗅いだとき、と付け加える。だから元気がないときはたまにケーキを焼くんだ、家中が甘いにおいでいっぱいになって、それがとっても幸せ。熱々の生地に包まれたバターシュガーの芳醇な甘みに、寝不足気味の脳がとろける。

デザートも食べて満足したところでこの旅は解散。運よく座れた横須賀線で、ぷかりと眠って帰途につく。