ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2023/11/11

眠たい目をこすって家を出る。ぴいと吹く風にほおを冷たくはたかれる。カイロを持ってきてよかった。コートのポケットの中で温もりを握りしめる。

モノレールに乗って東京流通センターへ。台車に乗せた段ボールの端があちこちにぶつからないよう気をつけながらする移動は、肩も腕も気も張る。次の機会には事前搬入ができるだけの余裕をもって入稿しよう。今回でおおよその日取りの感覚は掴めた。

出店者向けの開場まではまだ30分もあったが待機の列はすでにしっかりとできていた。東京での文学フリマといえばすっかり一大イベントなんだろう。ちょっとした緊張とこらえきれない楽しみとを抱えた表情を、並ぶ皆がしているように見えた。

設営を終えてひと段落したところでお客さんがわらわらとなだれ込んできた。著名作家でもあるまいし、いの一番に私たちのブースに来る人もいないだろうとゆるっと構えていたら、程なくしてやってこられた方が、SNSで見て気になっていたんです、と言って既刊も新刊もまとめて買ってくださって驚いた。思わず口元が緩んだ。

おそらくはX(Twitter)のハッシュタグを経由して見つけてくださったのだろう。宣伝ってちゃんと効果があるんだな、もっと出し惜しみすることなく伝えていこう、と改めて思う。出会いたいものと出会えないまますれ違うのは、誰にとってももったいないことのはずだ。

知り合いにも挨拶ができてよかった。SNSでならちょくちょく見かけるにしても生身の本人と会う機会はそうそうないって人が大半だから、いわゆるオフ会めいている。

Nが着ていた薄いピンクとグレーのセーターを褒めたら、じゃあ俺が**にあげる形見はこれね、と言われて縁起でもなく笑ってしまった。5月の文学フリマ東京でシェアハウスの人たちとのアンソロジーを買わせてもらったKが、今度は私の日記本を手に取ってくれてうれしかった。

Mとはもっと話せばよかったと、自分の席に戻ったあとにちょっと悔やんだ。書店にZINEを置いて回っている話とか、トークイベントを開いた話とか、気になることがいろいろとあったから。人があまりに多くて、ひと所にとどまるのがどうにも落ち着かないのが、この規模の催しになると起こるもどかしさである。

一緒にブースを運営したNちゃんと駅前でわかれたあと、運び出しを手伝ってくれた同居人と居酒屋で明太もつ鍋をつつく。

弱さとかダメさとかを自分の中の大事な要素として取り上げたくなる気持ちには共感するし、それはわるいことではもちろんない。でも安易に弱さばかりを自分の存在意義だととらえると、ありえたかもしれない他の魅力や突き詰められる部分に目を向ける機会まで失いかねないから、慎重になりたい。強いも弱いも誰と比較するかで決まる。だからこそ、自分は弱い、と言うことで誰かの弱さを否定してしまいそうなのも、怖い。

などといった話をぐるぐると、熱をこもらせて語りあった。ちょうどよく生ビールで酔えた。