ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2023/12/24

選別にいただいたマグカップとコーヒー豆の封を開ける。苔みたいにくすんだ緑色のぽってりとしたカップに、淹れたばかりのウィンターブレンドを注ぐ。滑らかに喉をくぐり抜けていく苦味が雪解けのよう。

目当てのそば屋がある辺りは美術館や公園こそあれショッピングモールやレストランなどはなく、イブであっても特別混み合わずにすいすいと歩けた。何かのお祝いにでも食べたいねと言っていた上天そばをここぞとばかりに頼み、提供までの待ち時間に昇降デスクの注文を確定。これで年明けからまたはじまる在宅勤務の日々でも少しは血の巡りを保てるだろう。濃いめの出汁に背を浸した大ぶりの海老天は噛み締めるたび口の中で跳ね、思わず言葉を失う。2人してはぐはぐと食べ啜り、満足した顔でそば茶を飲んだ。

食器屋で北岡幸士さんの個展を観る。灰釉の溜まりが熱せられてできるという淡い青緑色の細かな亀裂が、霜の下でじっと春を待つ若葉あるいは凍った河の底の息づかいに見えて美しい。近くのコーヒースタンドでドリップしてもらったエチオピアはパッと華やかに甘く香る。イチョウの葉で足元を黄色に染める公園の脇を進んで雑貨屋へ。シャンプーのテスターを嗅いでいるうちに酔った頭を路上で冷やし、ブリキ缶を買う同居人を待った。いい匂いも立て続けに鼻に持ち込むと感覚から体が置き去りにされる。

日記を書いているうちに同居人がキッチンまわりを片付けて食洗機を迎え入れる準備をしてくれた。部屋の照明をすべて消し、和室から持ってきたランプで照らされたテーブルにさっき駅前で買ってきたチョコレートケーキをのしりと置く。ろうそくを立ててマッチで火をつけ、せーので息を吹いて消した。