ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2024/3/15

上野駅は今日も人が多い。こんなにもたくさんの個体が概ねぶつからずに肩をすれ違わせながらそれぞれの行き先に向かって足早に進めているだなんて俄かには信じがたい。広小路口には大型のデジタルサイネージがいつの間にか設置され、毛の一本一本まで見て取れそうに精緻に描かれたパンダが時計盤を抱えて現在時刻を知らしていた。表示が切り替わるたびにまたたく光が、すぐそばの高架下をちかちかと照らす。明かりの先ではホームレスの男性が座り込んでいる。

行き帰りの車窓越しに景色を流しつつ手元の本に視線を落とす。地下よりも地上を走る乗り物のほうが好きなのは閉じ込められている感覚がまだマシだから。潜るため階段を降りるごとに頭がキシキシと痛んで胃に汗をかくから。スマホではなく書籍を手にする乗客が増えてきたように思う。心なしか。

レモンチーズケーキ味のスーパーカップにスプーンを差し入れながら、明日からの大阪への遠征のため荷造りに励む同居人を見守る。会社員の任務のひとつとしてではなく、友人たちとの活動の一環として、あるいは読んだ本に記されている光景を目の前にしたいからといった理由で、彼は身軽に体を持ち運んでいる。