ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

2024/2/27

東京には何もない、ってこないだ知り合った人が言っていたけど、そんなことないよね。蛇が這ったあとの藪のようにうねる住宅地の隙間を駆けながら、隣で同居人が口を開いた。日はもうほどほどのぼっているはずなのに、ここだけ1、2時間ばかり前に取り残されているみたいに薄暗い。古びたアパートの玄関はまだ夜の淵に立っているかのように影に潜んでいて、申し訳程度の幅しかないベランダは今にも壊れそうなほどに錆びている。

山間や海辺にあるものと都会にあるものは違う。それぞれの地域の内でも濃淡があり、あると都合のいいものはことさらに持ち上げられるし、都合のわるいものは平然と隠し通され見て見ぬふりがされる。翳りがちで湿った場所にも当然に人は生きていて、その人たちがことさらに恵まれておらず不幸せかというとそうとも限らない。あるものをないことにはしたくないし、知らないことは知りたいと思う。

天井を外せた気がした。あるいはマンホールの蓋だったのかもしれない。少しずつ狭く細くなっていく、明かりも不安定で終わりの見えない道からどうすれば這い出せるのか。右に左にとさまよっていたけれど、はしごを上がればパッと視界が開けた。背負っていた荷を降ろせたのは、休みの間に話した友人たちのおかげだと、職場の日報を書きながら感謝した。