ことのあらまし

日々のあらまし、いつか平気になるための記録

日記

2024/3/28

できない自分を真正面から見つめるのを恐れていそう、と言われ、この人は私をよく見ているな、ほんの3ヶ月で、と思う。本棚の中でくたびれていた太宰治『人間失格』を手に取る。カビが生えそうなほど湿気を含んだ文に、頬を撫ぜられる心地がした。 www.shinc…

2024/3/27

濡れた髪を乾かす間に目をつぶる。紐を縒るみたいにして今朝の夢の手触りを思い返す。とっくに過去形になった人間が今更立ち現れるはずがないのに。そのうえ都合よく奪い合うのだから。さすがに笑ってしまう。 真っ白なミルクを注ぎ入れられた紅茶みたいに、…

2024/3/26

上着をはおれば暑く脱ぐと寒い雨の室内。どうでもいい問題に悩まされていることを癪だと思い始められたら勝ちだ。勝ちも負けもないはずだがそれはそうとして気持ちの話。歩ける道はこの一本だけだと決めつけられているうちに他の道があることに気づけなくな…

2024/3/25

サバの切り身と梅干しを炊き込んだごはんを茶碗に盛って、細切りの大葉と炒りごまをふわりとかける。少し焦げついたかぼちゃの煮物を小皿に移し、じっくりと味わうように口を動かす。何をしても心の足取りが重たかったけれど多少は。たっぷりためた湯船に肩…

2024/3/24

小鍋を傾ける手元が狂ってテーブルから椅子の上のクッションまでどろりとした白濁の砂糖液で濡らす。まばたきひとつせず壁を見つめて菩薩のように薄く笑う、よく知った人の横顔が目に焼き付く。また間に合わない夢を見た。 カリカリになるまで炒めた細切りの…

2024/3/23

雨が止むのを待って外へ。もう夕方に差し掛かっているからか、商店街の人だかりはいつもの週末ほどではなく、メンチカツ屋に並ぶ列も4、5人におさまっている。この調子ならあそこも静かだろうと見越して向かった喫茶は予想通りの貸切で、チャイと苺大福をい…

2024/3/22

元日付けで入社したこの会社に在籍してそろそろ3ヶ月。オープンスペースのハイチェアに座って10名ちょっとでピザを囲む。酔って電車に乗りたくなくてお茶やジュースで喉を潤し、シラフで同期と言葉を交わした。自然と話題の中心に立ち、そこにいるだけで場を…

2024/3/21

この家は春一番が吹いたって音を立てて軋むから、地震なのかそうでないのかパッと判別がつけがたい。肌が粟立つような警報がスマホから鳴り響いて、やはり揺れていたかと理性的に理解する。即座に窓に手を伸ばし、バンと開け放ったらガス栓を閉めにキッチン…

2024/3/20

守られた場所で静かに読書にふけりたかったが目当ての喫茶には入れず。気圧とともに下り坂を転げ落ちていく精神をどうやって掬い上げればいいのかわからず途方に暮れる。同居人の提案により駅ナカの洋菓子屋で奮発したいちごのレアチーズタルトがおいしいの…

2024/3/19

言われたことをして、やるべきことをやり、間に合いそうにないけど間に合わせるためにどうにかこうにか。真面目だと思う。真面目すぎるきらいもある。会議がつづいて余裕がない。しかし天気は抜群にいい。息継ぎをする心地で予定と予定の合間を縫うように外…

2024/3/18

風が強い。ハンガーが大きく揺れて物干し竿にぶつかる音がベランダから響いてきて不穏。ガツンガツンと鳴るたび様子を覗いてまたリビングに戻る。今日も在宅勤務。 こんなにも天気がいいのに家にいながら画面を見つづけているだなんて。そう気づいたはいいも…

2024/3/17

春服を物色しようと高円寺へ。昼食後の飲み物を求めてキタコレビルに向かう。ビニールでできた暖簾をくぐると2畳に満たない手狭なカウンターにオレンジ色のパーマの女性をみとめた。 マサラチャイを頼む間、吹き抜けを見上げる。時刻は12時過ぎ。工事現場じ…

2024/3/16

散歩する柴犬を2匹、窓越しの飼い猫を1匹、路上の地域猫を1匹。朝6時の住宅地を駆けると早起きな動物と目が合う。玄関を開けるとキャリーケースを傍らに三脚を背負う同居人が靴紐を整えていた。 彼を見送り家事を済ませ身支度を整えてもまだたっぷりと時間が…

2024/3/15

上野駅は今日も人が多い。こんなにもたくさんの個体が概ねぶつからずに肩をすれ違わせながらそれぞれの行き先に向かって足早に進めているだなんて俄かには信じがたい。広小路口には大型のデジタルサイネージがいつの間にか設置され、毛の一本一本まで見て取…

2024/3/14

太陽を逃すまいとベッドシーツを洗う。竿いっぱいに身を預けた白い布地がたふたふと風に揺れている。自分で自分を省み、見出した陰影や手触りを言葉に落とし込むとき、息をしている感覚はないのに脳は縁まで研いでいる。削ぎ落としたものに大切なものは含ま…

2024/3/13

阿波野巧也『ビギナーズラック』を読み終える。三十一文字という箱におさまりながらも57577の区切りをするりと追い越していく様を、間近にというよりは液晶越しに眺める心地でページをめくった。指先でなぞり上げた画面に映る誰かの日常みたいに、歌に織られ…

2024/3/12

いつだって必ずYESかNOを返してくれるんだから気分で反応の変わる人間なんかよりよっぽど楽で扱いやすい。コードについてそう語っていた人のちょっと諦めるように笑った顔を思い出す。エラーを3度直してひと息。 道具というか作法というかに慣れるのに手こず…

2024/3/11

起き上がる気力がなく朝のジョギングは諦め、ベッドにくるまったまま本を1冊読み終える。自転車にまたがり出社する同居人を玄関で見送り在宅勤務の準備をするが、カフェインを入れないとどうにもならない怠さが頭と首の付け根にのしかかって重たい。豆を切ら…

2024/3/10

セットアップをまるごと買うのに数万円をぽんと出すのは気持ちがいいことだろう。昨日手に入れられずにいたブルゾンと対になるボトムが見たいと言う同居人に連れ立って吉祥寺まで足を運んだところ、サイズ違いのトップスとも出会うことができ、結局一式を持…

2024/3/9

毎週末のように服を求めて街を歩いている。今日は青山を散策。同居人の目当てのブルゾンは入荷から1時間弱で売り切れてしまったらしく試着すら叶わず。私がずっと探していた白ステッチの濃色のデニムパンツはガラス張りなのに薄暗くちょっと近寄りがたい雰囲…

2024/3/8

窓が大きい家にいると外と地続きにあることがよりわかる。先日ほどではないにしても雪が降ればやはり窓際は明るく、照明から下がる紐を引く必要のない朝だった。歯列矯正をするなら上下左右の歯を抜いて2年はワイヤーを着けてそれで100万くらい。テキパキと…

2024/3/7

紅茶のパックが切れた。食後の飲み物がほしいが今コーヒーを口にするのは心臓への負荷を思うとためらわれる。戸棚の奥に迷い込んでいたルイボスティーを取り出してポットに湯を注ぎ、あたためておいたマグを夕焼け色で満たした。記憶よりも甘い味や香りに、…

2024/3/6

壁も隔たりも感じさせる隙なくするりと懐に入るようにして距離を縮める人に時折出会い、そのたびうらやましく思うと同時にかえって遠い存在にも見て取る。昨日推敲した2月24日の日記はまあまっとうに恋文で、読む側からして心地よいものなのかは果たして自信…

2024/3/5

脚を動かせば前に進めるのだから楽だ。物事は本当はもっともっと単純でむずかしいことなんて何にもない。そうであればいいのに。火曜は資源ごみの日だから走りやすい。すえたようなにおいがしなくて、路上も散らかっていないから。 腹を括ってやっつけたほう…

2024/3/4

目覚めがよかった記憶をうっすらと喰みながら朝の支度を済ませ、ボウルやらふるいやらを並べる。チーズケーキを朝一番に焼いたならまずわるい一日にはならないだろう。クリームチーズをやわらかくなるまで練り、砂糖、溶き卵、ヨーグルト、小麦粉を順に入れ…

2024/3/3

クリームチーズを常温に戻しながら日記を推敲。散歩がてらドラッグストアまで向かい、お使いのプロテインと切れていたパスタソースを買って帰ると、同居人はコーヒーを淹れる準備を万全に済ませていた。漂うお香の煙が差し込む日の光に照らされて、ちらちら…

2024/3/2

ステッチが白くて生地のやわらかい、色が濃くて太めのストレートデニムを探して祐天寺から代官山まで服屋を見て歩いたが、理想のものには出会えず。DIGAWELで羽織らせてもらったベージュのフーディーと、ハンバーガー屋とライブハウスの間にあるセレクトショ…

2024/2/29

昨日集積所に出しておいたぬいぐるみたちは周りにあったビニール袋と一緒にきちんと姿を消していた。大学時代から引っ越しを共にしてきた彼らを手放すことにためらいが無かったわけではないが、もうじゅうぶんだとも思った。抱き枕ほどの大きさのカピバラと…

2024/2/27

東京には何もない、ってこないだ知り合った人が言っていたけど、そんなことないよね。蛇が這ったあとの藪のようにうねる住宅地の隙間を駆けながら、隣で同居人が口を開いた。日はもうほどほどのぼっているはずなのに、ここだけ1、2時間ばかり前に取り残され…

2024/2/26

6時前に目覚めた同居人がいそいそと身支度を済ませて外へ駆けていった。北秋田で過ごした早寝早起きの日々がよっぽどよかったらしい。少し遅れて私もトレーニングウェアに腕を通す。身体を伸ばし、キャップを被り、スニーカーの紐を整えて玄関を出る。 まだ…